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12、赤土の街、③、ロバのじーとカロミーン [人形カタログ]

ロバのじーとカロミーン.jpg
低い歌声が聞こえてきたら
カロミーンが近づいてきている証拠さ
カロミーンはいつもろばのじーの背中にまたがっていて
かまどにくべる薪を売り歩いているよ
あたりがどんなに騒がしくとも、
聞き分けられる不思議な低い音が出せるんだ
お昼寝している人の耳にもそれは届いてしまうんだ
だれも聞き逃さないから
どのおたくの暖炉にも、薪はいつも用意されている

カロミーンの出す音は言葉とも違うし歌とも違う
静かに耳に届いて、
なにげなく耳の中を通りすぎる
薪が必要な人だけはその音に気が付いて
ああ、カロミーンがやってくるのだなって思う

ここは赤土でできた人形の街だ
変わった住民がいるけれどだれもそれを気にしたことはない
毎日毎日の中で皆それぞれの居場所を持っているだけだよ

この街に来たのなら、名物の人を探すといいよ
それはこのお話の通りに、そこにいる人たちだから



これはシリーズです。赤土の住人、3人目、最後の人とロバです。
人形カタログはこれで終わりです。
来年からは『ポケログ』を始めます。
ポケモンの写真をたくさん撮ったので、それを使います

よいお年をお迎えください。


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12、赤土の街、②、力持ちぶーふ [人形カタログ]

ぶーふ.jpg
力のかかることは、なんでもぶーふにおまかせください
ただ裸で座っております
どんな鋼鉄の棒だってぐにゃって曲げてしまうんですよ
だけど、なかなか力仕事がないのが悩みのたね
何もすることがないと
ただただ座っているだけだよ

目の前を時間だけが通り過ぎていくので
そんなときには祈りをささげることにしたそうです
街のみんながいつまでも健康で仲良く暮らせますように
ただただ祈っているそうです

そんな毎日は区別をつけるのが難しいから
ぶーふは今がいつだったか、いつもわからないのです
今度ぶーふに力仕事を頼む時には
まず今日がいつなのかを教えてあげてください

これはシリーズです。赤土の住人、2人目です。



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12、赤土の街、①、パン職人ラパパ [人形カタログ]

パン職人ラパパ.jpg
赤土の街には、パンの焼けるいい香りがただよっている
パン職人のラパパはいつもふてくされているけど
焼けるパンは極上だよ

「つまんねえ」というのが口癖で
ニコリともしないのだけれど
ラパパのパンはいつもおいしい

お休みの日に川べりを散歩しているラパパをときどき見かけることがある
のんびり、ぼんやり歩いていても
頭の中ではパン作りの順番を繰り返しているそうで、
「ちっとも頭を離れやしねえ」
と苦笑いしていたよ
すれ違いぎわに、焼き立てのパンの香りを感じて思わずふりかえった

ふっくらやわらかいパンも好きだけど
ぎっしり木の実が詰まったかためもパンの方がもっと好きだな
夕方を過ぎてラパパの店に寄ると
ふっくらやわらかいパンは売り切れているけど
かためのパンが残っていることがあるよ

「これは同じ値段だけど、材料多く使っているし、力を込めているんだから得だぜ」
とラパパが言ったっけ
たくさんの人の好みとはずれたところに自分の好みがあると
得だな
街の道しるべのようなラパパの店をめざして歩くとき
この街で生活できてよかったな、と思うよ

これはシリーズです。赤土の街の住人が3人出てきます。




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11、ワインの守り人 うっさむ [人形カタログ]

ワインの守り人・うっさむ.jpg
うっさむはワインの守り人
身体の中に1本のワインを蓄えられる

うっさむの住むワインセラーにはありとあらゆるワインがそろっている
うっさむにはワインの変化がわかるのだ

ワインセラーは大きな洞に作られていて
中は迷路のようになっている
その洞の中に寝かされると、ワインには特別の風味が増していく

そこに訪れてごらんよ
めまいがするほど芳醇な香りが満ちていて
ワインを口にしなくてもうっとりと酔ったようになってしまう

どの1本を取ってもその1本にはそのワインの歴史があるのだ
どの1本を取ってもそのワインは最初はぶどうだったのだ
ぶどうを育てている人から、ぶどうを作っている人に役目へ引き継がれ
樽に入り、瓶に入り、うっさむの元に送られて来るのだ
そうやって人の魂が入り込んだワインを軽々しく扱うことなんかできやしない

うっさむのワインセラーはワインの神殿だ
身体の中に入ったワインはその人の血の素になる
うっさむは邪念をはらい、ただ自然の壮大な力を感じながら
じっとじっとワインを見守っているのだ

うっさむの手を離れたワインは
それぞれの特別な場所へと運ばれる
ある時はそこは祝宴で、ひとびとが酔いしれる手伝いをし
ある時はそこは偉大な人が亡くなった悲しみの場所で
ひとびとは亡くなった人を悼み、
その家族の悲しみを和らげ
これから生き続ける自分たちを励まし
沈んだ気持ちは静かにまた浮き立つように
希望を持ち続けられるように
その場その場に望まれる気分を演出し高め
人々は満足する

うっさむは今日もワインを見守り続けている
毎日、毎日、ワインを手放す時は毎日悲しい
でもどうやら自分のワインは人を喜ばせ楽しませるらしい
それがどういうものかはわからないけれど
ワインに合う料理はわかるから、それを作りさらにワインの存在を高め
ただただワインのそばにいて見守ることで時間をつないでいる


このお話はこれで終わりです


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