009 花

きれいな花なんかクソくらえだ
花なんか咲きさえすればいいわけで
きれいかどうかなんかで価値は決まらないさ

花に支配される生活だからね
それを支えるだけで精一杯さ

自分の花は自分では見えない
水辺に自分の身体を映し見て花の咲きぐあいを確認するんだ

咲くときだけは知りたかったのに
それさえも自分では確認できないんだ
どうせつまらん人生さ

でもね、たまたまその瞬間をわかった人もいるんだって
だからまだ咲いていないなら
もしかしたらその瞬間を知ることができるかもしれん
ま、
それはこれからのことにかかっているけどね

花がきれいかどうかなんて考えるなんて、まったくいかれてる
そんなのんきなことを言っていられるのは
自分で花を背負っていないからさ

008 帰還

古代の海より戻りました
どうぞよろしくお願い致します

今の生活のことはわかりません
少しずつ覚えていきます

自分の生きていた時代は
あまりに昔過ぎてもう記憶なはいのです
これから記憶を作ります

ときどき意味もわからず悲しくなり
ときどき意味もわからずつらくなります
そういうときは手足をぐるぐると振り回して
とにかくどんな形でもいいからエネルギーを作り出します

カラ元気でもいいんです
今、この時に元気でありさえすれば
もう古代には戻れませんからね

なぜ地中に埋まったままにならなかったのか
不思議でなりません

007 遠景

ひょろひょろとできるかぎり首を伸ばして
うんとうんと遠くを見てみたい

点のようにうごめいているものが
いったいなんなのかわからず
それは渦を巻いたり
波を作ったりしていて
濃淡ができ　ゆがみ　しばらくとどまり　また濃淡ができる
その動きは催眠術のように眠気を誘う

どんなに強い力を出そうと思っていても
力はどこかに隠れてしまって
ちっとも出てきてはくれない

不安定な足元は眠気に勝てず
よろよろとあちこちに振り回され
よろめき　ころびそうになり　ふと持ち直し　またよろめく

どこかよりかかれる所を探そう
そこにもたれかかってぐっすりと眠りたい
遠くを見過ぎたせいでめまいがしているんだよ
安心できる場所を見つけるまでは
閉じようとする目をこじあけ
目を見開き　そこに焦点を合わせ　眠気に引き込まれそうになり　再び目を見開く

あと少しだよ
なんとかふんばれ
あと少しだよ
なんとか目を開けていなさい

006 キーボード

キーボードをたたく音がリズムを作り
小さいマッチ棒のような人たちがその上に踊る
カタカタカタカタ
そろうようでいてそろっていないのだけれど
全部を見渡せないから
どこがどのように狂っているのかは定められない

左はじに注目しよう
ＱＡＺと並ぶキーで
圧倒的に押されるＡをじっと見つめて
ずれた時にハッとなるのだけれど
それを口に出すときにはもう遅い
彼は次の文章を打っているのだ

リズムが乱れたって
残された文章が文章として成り立っていればそれでいいという話で
それ以上でも以下でもないさ
どんどん打ったらいいさ

カタカタ音の中に不思議な恍惚感がある
音がしている間はなんだか安心できる