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5.書くこと [精神と言葉]

小学校くらいまでは、ずっと寡黙な子どもだったので、しゃべるのが不得手だった。
言葉を使って自分の考えを伝える手段としては、しゃべるよりも先に、書くことが発達したみたいだ。

小学校の低学年から高校を卒業するまでの間、書くことについては、誉めてもらえることが多かった。
ずっと、私の根底にあって、私を支えてくれたのは、物を書くことだったと思う。
ただしいつも書きたい「こと」があるわけではなく、ただ書きたいという衝動だけがあった。
中学生からは、手紙を書くことが最も好きなことで、現在に至るまで、これが私の一番好きなことなのだけれど、それは、相手を想像すると「書くこと」が生まれてくるからなのだと思う。また、返事をもらえば、「返事を書く」という目的が生まれる。手紙のやりとりで何か聞かれれば、お題を与えられたということで、またそれについて書ける。
私にとってはいつも「お題を与えられる」ということが最も必要なことだったのだ。

最初に就職したのは研究所だったので、実験をしていた。実験も好きだったけれど、それよりもレポートをまとめることの方がダントツ好きだった。手取り足取り、ていねいに書き方を教えてもらった。その当時は鉛筆で、手書きでレポートをまとめていたのだ。時代は変わったな~と思う。

書くことでお金が稼げればいいなとずっと思っていて、物書きになりたいと思っていた。
童話や小説の公募は、いつまでに何枚書くかという締切と、何を書くかというお題を与えてくれた。
けれど、私は本を読むことがそんなに好きではないし、得意でもない。確かな目的があったり、本の内容がおもしろいと思うものでなければ読み進められない。
小説は、小説を書くために読むようになったようなものだ。よく「物語の力」などと世の中では言うし、感覚としてはわかるし、実際その「物語の力」を実感させてくれた作家を見つけることができたし、好きになった物語は今も私を支えてくれている。でも、自分を支え続けてくれているのは常に「現実」であって、物語ではないのだ。きっと本をたくさん読んで、ただ読むという喜びを知っていて、書くことが好きな人が真の作家になれるのだろうと思う。

本当は、書いたことが人に通じなければ意味がないのだろうけれど、人に意味が通じるということがいかに大変なことかということを、今回身を持って経験したのだから、頭壊してまでやることじゃあないなと思った。

私は常に自己満足の域を出ることができず、今でもそうなのだ。
そして、それでいいのだとやっと気が付いた。自分が書いたものを読み直し、自分で意味がわかって文章として成り立っていることが確認できれば、それだけでかなりうれしい。書くためには考えなければならず、常に「書くこと」が目的としてあると、周りをよく観察するようになる。前日との違い、季節の違い、なんでもない違いを発見しただけでかなりうれしい。発見自体が脳を喜ばせてくれる。

パソコンの発達と並行して再就職できたことはすごくラッキーだったと思う。ワープロ機能を使えば、大きな修正小さな修正も思いのままにできるし、項目ごとに書き散らかしておけば、整理も簡単だ。インターネットが発達してからは、わからないことはすぐに調べられる。

ときどき手を使って文字を書きたいと思うことがあるので、それはそれでノートに書いている。何が楽しいのかわからないが、ノートに字が埋まっていくということがこれまた楽しくて、それがたまっていくことが楽しいのだ。それを後で読み直すと、もう、ほとんど意味がわからない時もあるし、考えが今と全然違っていることを発見する。びっくりする。今に続く同じ自分だとは思えないくらい違う。まったく忘れていて、カケラも思い出せないこともある。それがおもしろい。
本の抜書きも大好きだ。
そうやって自分の世界に閉じこもって自己満足に浸っていればいいだけなのだ。
そうやって、うれしい、楽しいと実感する時が脳の喜ぶ時、自分を生かしている時なのだ。
まったく安上がりな人間だ。
だから、あとは死ぬまでに生き続けられるだけのお金と、ただ楽して、楽しい時間が続けばいいと思っていて、その通り楽していて楽しい時間が続いている。
だからこのままやっていけばいいのだ。

来年還暦を迎える。
義母が初めて海外旅行に行ったのは60歳を過ぎてからだと言っていたし、友達のお母さんは改めて刺し子をやり始めたという。グランマ・モーゼスが本格的に絵筆を握ったのが75歳。アーシュラ・クローバー・ル=グウィンは84歳の現在も物語を書き続けている。
そういう話はすごく私を励ましてくれる。まだまだ何かやる時間が残されているのだ。
還暦は生まれた年の干支に再び還る年。新しい人生の始まりがあるのだ。
いい年して、私は調子に乗りやすく、相変わらず自由で子どもなので、新しい人生は慎重にゆっくりやっていきたい。




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