ぶぶらばー王子 ③ [ぶぶらばー王子]
「もう、お話までいいかげん…」
美久は、ページをめくる。
一平の頭に、大きい王冠が目の上までかぶさって、剣を持ち上げることもできず、おくさまがたに、そりで運ばれていた。
よく見ると、剣はきらきらと光っていて、一平の顔が近づいている。
「なめちゃ、だめよ!」
美久は声を荒げた。
絵本の中とはいえ、剣は剣。そんなものなめたら、べろが切れてしまう。
「はーい! 一平! おねえちゃんの言うことを、ちゃんと聞くんですよ」
ママは、あいかわらず、コロッケを揚げる手を休めもせず、楽しそうに声をあげた。美久はじっとママのお尻をにらんだが、ママにかまっているひまはなかった。
ウサギのおくさまがたは、フォkックス大臣の悪事をうったていた。
「わたしどもの、おとなりのネズミ一家を、つれて行ってしまったんです」
「ぶぶらばー!」
わかっているんだかいないんだか、一平のかけ声は、一人前だった。
いよいよ、一平はフォックス大臣の向かいに! ちょっこり座っていた。
フォックス大臣は、剣を振りまわしているが、一平はきょとんとして、それを指差しているだけ。
いったい、これで役に立つのだろうか。
わるものどもは、ぞろぞろと出てきて、一平の前にせいぞろい。そのうしろに、なわにしばられたマウス一家のねずみたちが、これまたぞろぞろとならんでいる。
「ぶぶぶぶー」
一平は、そんなものより、きらきら光る剣のほうが気にいっているらしい。剣は、一平の乗ってきたそりの中に、まだおいてあった。
一平ははいはいして、そりに近づくと、つかまり立ちした。
「だめ! 一平! あぶない! そんなものなめられないよ!」
そのそりのまわりを、ぐるりとフォックス大臣とその手下に囲まれてしまった。
「ぶぶぶぶぶー」
「なにを! そうはいくか!」
なにも言ってないのに、フォックス大臣一味は、びくびくしている。
一平は、力をふりしぼって、そりにはいのぼり、そして、そりの中に頭から落ちた!
「あぶなーい!」
あまりの大きな声に、ママがふりかえった!
「なに? ちょっとまって!」
次のページをめくると、一平はとうとう、大きな声でなき出していた。
「びぃえーん えんえん! びぃえーんえんえん!」
言葉で書くと、ずいぶんおとなしい。ほんとだったら、耳をふさぐほどすごいのに。
でもさすが絵本! なみだは滝のように流れて、四方八方に飛びちっていた。それに、一平のなきごえは、絵本の中の悪人どもには、ききめがあったらしい。みんな、耳をふさいで立ちすくみ、マウス一家は、ぽかーんと口をあけて、びっくりしていた。
うさぎのおくさまがたは…、のんきに手をたたいてよろこんでいる。
「だまれ! だまるんだ!」
フォックス大臣がこわい顔で言ったので、一平はもう、はなみずもべちょべちょで、もっともっと泣きわめいた。
一平のうしろから、ウサギのおくさまがたが、フォックス大臣に向かっていっせいに石を投げはじめた。
「あらら、おくさまも、けっこう役に立つときがあるのね」
どうやってなわをほどいたのやら、マウス一家も加わって、石を投げはじめた。
さいごのページでは、みんなが集まって、一平をたたえ、うたう。
「ぶぶらばー王子! ありがとう! ぶぶらばー王子、ばんざーい!」
一平もにこにこ笑って…、でも、やっぱり剣の光につられて、そっちに行こうとしている。
「だめだってば!」
美久は、絵本を持って立ち上がった。
「どらどら」
ママも、やっとコロッケができあがったとみえ、エプロンで手をふきふき近づいてきた。
「もう、一平ったら、剣をなめそうで、こわくって」
「剣?」
ママがのんきに首をかしげる。
「あー! でも、それより、ここから出られなくなったらどうしよう!」
お話が終わって、美久はきゅうに不安になった。そして、絵本をぎゅっとだきしめた。
「どこ?」
と、目をまんまるにしている…、そのママの足もとで、一平がママのスカートを引っぱっていた。
「はいはい」
ママは、一平をだきあげて、
「いい子だったね」
と、ほおずりした。
美久は、あわてて絵本をもう一度、開いてみた。
『しずかな雪の朝です』いつもの言葉と、いつものおくさまがた。そして、ちゃんとラビット王子がかつやくする、いつもの絵本。
美久はうんざりした。
いつも、いつも危険はいっぱい。なのに、ママがのんきにしているあいだに、すっかり解決してしまう。
美久はいつだって、心からしんぱいして、はらはらして、あるときには、だいかつやくするというのに。
ぷーんと、コロッケのいいにおい。
(ま、しょうがない。次の危険にそなえて、まずおなかをいっぱいにしなくっちゃ)
美久は、やれやれと思いながら、平和そうに笑いあっている、ママと一平を見くらべた。
<おしまい>
美久は、ページをめくる。
一平の頭に、大きい王冠が目の上までかぶさって、剣を持ち上げることもできず、おくさまがたに、そりで運ばれていた。
よく見ると、剣はきらきらと光っていて、一平の顔が近づいている。
「なめちゃ、だめよ!」
美久は声を荒げた。
絵本の中とはいえ、剣は剣。そんなものなめたら、べろが切れてしまう。
「はーい! 一平! おねえちゃんの言うことを、ちゃんと聞くんですよ」
ママは、あいかわらず、コロッケを揚げる手を休めもせず、楽しそうに声をあげた。美久はじっとママのお尻をにらんだが、ママにかまっているひまはなかった。
ウサギのおくさまがたは、フォkックス大臣の悪事をうったていた。
「わたしどもの、おとなりのネズミ一家を、つれて行ってしまったんです」
「ぶぶらばー!」
わかっているんだかいないんだか、一平のかけ声は、一人前だった。
いよいよ、一平はフォックス大臣の向かいに! ちょっこり座っていた。
フォックス大臣は、剣を振りまわしているが、一平はきょとんとして、それを指差しているだけ。
いったい、これで役に立つのだろうか。
わるものどもは、ぞろぞろと出てきて、一平の前にせいぞろい。そのうしろに、なわにしばられたマウス一家のねずみたちが、これまたぞろぞろとならんでいる。
「ぶぶぶぶー」
一平は、そんなものより、きらきら光る剣のほうが気にいっているらしい。剣は、一平の乗ってきたそりの中に、まだおいてあった。
一平ははいはいして、そりに近づくと、つかまり立ちした。
「だめ! 一平! あぶない! そんなものなめられないよ!」
そのそりのまわりを、ぐるりとフォックス大臣とその手下に囲まれてしまった。
「ぶぶぶぶぶー」
「なにを! そうはいくか!」
なにも言ってないのに、フォックス大臣一味は、びくびくしている。
一平は、力をふりしぼって、そりにはいのぼり、そして、そりの中に頭から落ちた!
「あぶなーい!」
あまりの大きな声に、ママがふりかえった!
「なに? ちょっとまって!」
次のページをめくると、一平はとうとう、大きな声でなき出していた。
「びぃえーん えんえん! びぃえーんえんえん!」
言葉で書くと、ずいぶんおとなしい。ほんとだったら、耳をふさぐほどすごいのに。
でもさすが絵本! なみだは滝のように流れて、四方八方に飛びちっていた。それに、一平のなきごえは、絵本の中の悪人どもには、ききめがあったらしい。みんな、耳をふさいで立ちすくみ、マウス一家は、ぽかーんと口をあけて、びっくりしていた。
うさぎのおくさまがたは…、のんきに手をたたいてよろこんでいる。
「だまれ! だまるんだ!」
フォックス大臣がこわい顔で言ったので、一平はもう、はなみずもべちょべちょで、もっともっと泣きわめいた。
一平のうしろから、ウサギのおくさまがたが、フォックス大臣に向かっていっせいに石を投げはじめた。
「あらら、おくさまも、けっこう役に立つときがあるのね」
どうやってなわをほどいたのやら、マウス一家も加わって、石を投げはじめた。
さいごのページでは、みんなが集まって、一平をたたえ、うたう。
「ぶぶらばー王子! ありがとう! ぶぶらばー王子、ばんざーい!」
一平もにこにこ笑って…、でも、やっぱり剣の光につられて、そっちに行こうとしている。
「だめだってば!」
美久は、絵本を持って立ち上がった。
「どらどら」
ママも、やっとコロッケができあがったとみえ、エプロンで手をふきふき近づいてきた。
「もう、一平ったら、剣をなめそうで、こわくって」
「剣?」
ママがのんきに首をかしげる。
「あー! でも、それより、ここから出られなくなったらどうしよう!」
お話が終わって、美久はきゅうに不安になった。そして、絵本をぎゅっとだきしめた。
「どこ?」
と、目をまんまるにしている…、そのママの足もとで、一平がママのスカートを引っぱっていた。
「はいはい」
ママは、一平をだきあげて、
「いい子だったね」
と、ほおずりした。
美久は、あわてて絵本をもう一度、開いてみた。
『しずかな雪の朝です』いつもの言葉と、いつものおくさまがた。そして、ちゃんとラビット王子がかつやくする、いつもの絵本。
美久はうんざりした。
いつも、いつも危険はいっぱい。なのに、ママがのんきにしているあいだに、すっかり解決してしまう。
美久はいつだって、心からしんぱいして、はらはらして、あるときには、だいかつやくするというのに。
ぷーんと、コロッケのいいにおい。
(ま、しょうがない。次の危険にそなえて、まずおなかをいっぱいにしなくっちゃ)
美久は、やれやれと思いながら、平和そうに笑いあっている、ママと一平を見くらべた。
<おしまい>
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