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ある朝のできごと [ショートショート]

俺の住んでいる駅から都心までは約二時間。
駅から自宅までは歩いて十八分。
二十分じゃないところがいい。
駅までバスが走っているけれど、コミュニティバスなので小さいから朝は満員になる。
だから、朝、時間に余裕がある時には歩いて行く。
今朝はすんなり目が覚めて、快適だったので歩いて出かけた。
たいてい朝食は食べない。
お気に入りのミスチルを聞きながら、のんきに駅へと歩いていた。
歩いて行く時には車の通らない道を選んでいる。その道のりの半分の距離には田んぼや畑が多く、朝早いとほとんど人と出会わない。そこを過ぎると住宅街になり駅に向かう人が少し増えてくる。その先寂しい商店街に入ると駅への階段口がすぐに見えてくる。
これから夏に向かう季節。暑くもなく寒くもない。天気もいい。一日の始まりとしては申し分のない感じだった。
が。
びっくりした。
駅までの約半分くらい歩いてきた所の田んぼ道に人が倒れているのが見えて…、だんだん近づいて行ってよく見てみると、なんと、妻のミチコだった。
え?
朝、家にいなかったっけ?
「行ってきます」と声はかけたはず。
だけど、妻がいるかいないかなんて気にしたことはなかった。
「ミチコ! どうしたんだ?」
イヤホンを外し、俺は屈んで、ミチコの身体を揺すった。
げ。
死んでる。
額に触ったら、冷たくなっていて、人間の肌って感じがしなかった。
なんで?
何があったの?
どこか具合が悪いとか、そういうこと言っていたっけ?
しばし呆然としていると…。
田んぼのずっと先の、土手の上を通勤電車が走り抜けた。
やばい。
時計を見ると、もう急がなければいけない時間になっていた。
やれやれ、うっかり電車に乗り遅れるところだったよ。
今日は大事な会議があるのだ。遅れるわけにはいかない。
ミチコはもう死んでいるんだ。
叩いたって起きないし、何をしたってもう手遅れだよ。
俺がこのまま会社に行った後、誰かが見つけてくれればそのうち俺のところに知らせがくるのだろう。
まいったな。
葬式とか親戚への通知とかやっかいそうだな。
だけど、まず会社に行ってからその先のことは考えよう。
急がなくちゃ。
考えたってしょうがないことはいつだって後回しにする。
人は誰だっていつかは死ぬんだ。
前向きに考えなくちゃ。
俺はまたイヤホンを耳にはめると、気分を切り替えて駅に向かった。
人生、いろいろあるさ。
しょうがないしょうがない。


注)この話は創作です。事実とは関係ありません。
小説家になろうというサイトに掲載してみました。(2015/4/16)

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